「嵐さー、お前、昨日から思ってたけど」
「なんだよ。」
「福岡行ったからって自惚れてねーか?」
「!」
「全国強豪校バスケ組織の奴らが全国行って名を残すなんて当然なんだよ。」
「……!」

「高校の強さと個人の凄さはちげぇーだろうが。」

「…そうだ。でもお前は」
「あたしは明徳でバスケ出来て本当によかったって思ってる。全国には及ばなかったけど、このチームに会えて幸せだと思ってる。」

「はっ……?よかった?」
「そうだよ。」
「全国に行けなかったことがよかっただ?幸せだと?お前、それ本気で言ってんのか!?」

「本気…」
本気でーーって嵐に睨まれた時、胸を張っていた自分の心の中の何かが揺れ動いた気がした。

「笑わせんな。それはお前、全国に行けなかった奴の慰めの言葉だろ?」

「ーー!!」
「何が日本一取ろうだ……世界征服だ……。結局口だけじゃねーか。」
「ちげーよっ!!」

ーーダンッ!!
我慢ならず嵐は壁に未茉の両腕を掴み体を押し強く当てながらにらんだ。

「湊なんかに洗脳されてんじゃねー」
「は?なんで翔真が洗脳……」
次の瞬間、言い訳に苛立ったのかその名前に苛立ったのかもう定かではなかった。


そして頭に血が上った自分の行動も。


「んっ…!?」
気づくと未茉の唇を無理矢理、力づくで奪っていた。
「やめっ……!!」

嫌だともがいて暴れる体を強く押さえつけられ、口内には唇と歯が当たり血の味がして、
「っの……!」
未茉はありったけの足蹴りでベッドから嵐を突き落とすと、その体は床にドサッと打ち付けられ、

「ざけんな……」

二人で昔から殴り合いの喧嘩はたくさんした。
でもーーこんなに心が傷ついたことはない。



「……」
嵐は顔を伏せ、血の味がした唇を舐めながら薄ら笑いを浮かべた。

「ずっとしたかったことーー」

こんな形でしか出来なかった。



「部活行く。」
未茉はバッグを背負って部屋を出ていこうとした時、嵐は尋ねた。


「お前、今バスケを見てるか?」


「……」
「四六時中、バスケのことを考えていたお前はもういねーんだな。」

ーーバタンッ!!!
勢いよく閉ざされた扉の音が嵐の心に響いた。
唇を噛み締めて俯き呟きながら力なく体を揺らして笑って目に涙を溜めた。


「こっちが妄想じゃなかったか……。」