桐生嵐

彼が初めて未茉に出会った時の記憶はない。それは生まれた十六年も前に遡るからだ。

母もプロバスケット選手で結婚と同時に引退をした。
東京のプロバスケットチームに所属していた親父は、未茉の父・白石清二のアメリカ帰りから同じチームでプレーをしていて家族ぐるみで仲も良く、

「もうすぐねー♡赤ちゃん」
「待望の女の子でよかったわね。白石さん」
同時期に妊娠した二人の母は、家も近かったことから、出産後も家に赤ん坊を抱きながら行き来しあうような仲だった。

「二人ともよく寝てるわねー」
「本当にー♡」
年の半分は遠征でいない二人の夫の為、嵐の母がよく遊びに来ては、未茉の兄と未茉と嵐を並んで寝かせながら、二人の母親はその寝顔を幸せな顔で眺めていたようだ。

記憶はないが、生まれた時からずっと未茉が隣にいたと思うと嵐は嬉しかった。


未茉の家の近所には星河兄弟も住んでいて、子供達同士が遊ぶようになり、片親ということもあり未茉の母が面倒をみたりすることも多くなり、みんなで一緒にいる時間が増えた。

一歳、二歳、三歳、四歳、と子供の年齢が変わっても母親達は親友並に仲良くなり、未茉と嵐はもうすっかり親友ーーいや、

「嵐!お前のアイスの方がでけぇからあたしと交換しろっ!」
「はぁっ!?嫌だよ!ふざけんなっ!同じ袋に入ってたんだから一緒だろ!?」

「一緒じゃねぇっ!お前の方がデカイッ!!!」
「それはお前が食ったからだろ。」
「いーや、最初からお前のアイスの方がでかかった。だからよこせっ!!」
「やだよ!!」
ポカポカッと殴りあいの喧嘩をする双子の男兄弟のようだった。
喋り方も気の強さも二人はそっくりだった。