「なんだ今のシュート……」
「途中、どこにボールがあるのか見えなかった…」
さすがの名古屋もコート上で足を止めて呆然とした。
自分達の自慢の鉄壁のディフェンスを崩されたあげくまざまざと見せつけられたトリックプレーに苛立った。

「……今の」
エマはそのプレーに気づき、嵐の方に視線を送ると、

「嵐!!今の懐かしいだろ!?」
コートから未茉は嵐へ呼び掛けると、

「おう。お前、俺のパクったろ?」
「あははっ!わりーなっ!」

悪戯な目で笑ってる彼女に嵐は手を伸ばし、未茉はニッと笑いながらパシッ!とタッチをしてコートに戻ってく。

小さい頃、よく星河兄弟やパパ達相手に二人でどうやったら勝てるかって試行錯誤してたくさんのトリックシュートを夢中になって考えてた懐かしい日々を思い出し、

その叩きあった掌を愛しそうな目で見つめながらグッと握りしめてると、



「桐生さん。」

隣にやってきた翔真が呼んだ。


「あ?なんで敬語なんだよ。俺らタメだぜ?」

「ああ…はい。なんとなく…すみません。」
ふっといつもの甘い空気を漂わせ微笑むと、

「お前、男にもそんな色気使ってんだな」
「色気……?」
自覚症状がないため何を言われてるのか全く分からない翔真は首を傾げる。


「俺が鮮明に覚えてるのは、小学校のミニバスの全国大会で桐生さんと戦う前日にある女の子と1対1して、次の日に全く同じプレースタイルのエースにぼろ負けして…」

「!!」
コートに視線をやっていた嵐は驚き振り向いてコート上の未茉を追いかける翔真の目を見上げた。

「世の中にあんな瓜二つなプレーヤーがいるのかと、自分好みのとっても可愛い女の子に負けた後にうけた衝撃はでかかったですね。」

「…とても可愛い女の子だとぉ?」
「一目惚れってやつですね。」
にこっとゆるく微笑む翔真に、
「誰だっ!?その可愛い女の子はっ!!きちんと俺の前で名前を出して見やがれ!!!」

「秘密です。」
面白そうに一枚上手な笑みを向けると、
「この野郎っ!!言えっ!!言いやがれ!!」

「こんな大事な時にあそこで何を盛り上がってるんだ・・・アイツら。」
「盛り上がってるっていうか、桐生嵐が一人で騒いでるっていうか・・・。」
結城と三上は冷たい視線を送っていた。