……ゴトッ。

持っていたスマホが落ちてしまったことにも気がつかないまま、遠くのテニスコートからざわめく視線にも、人目も憚らず、

夕暮れ沈むベンチに膝をついて翔真の肩に腕を乗せて頬に手を当てながらほんの少し高い位置から唇を重ねる。

いつもは見上げる彼の顔を少しだけ見下ろすこの位置が未茉は好きだった。

いつもと違う未茉により心がかきみだされるのか、彼女の背中に回す翔真の手も求められるように引き寄せられる唇から胸の奥が熱くなった。
「…ん」
彼女の溢れる声も愛しい。
そんな蠢くほどの衝動のような熱っぽさが全身を駆け巡る。


(キスすればするほど、もっと好きになる。
もっともっと欲しくなる。翔真のことを。)

こんな感情が自分の中に生まれるなんて、思いもしなかった。震えるような感情を抱き締めるように翔真のふわふわの頭に手を回して撫でた。


彼女から求められることを嬉しそうに隙間なんかないくらいに抱き合っていた腕を緩め、少し目を開けると目が合ってふと唇を離されるのかと思うと、

「止めちゃやだ。」

おねだりするようにギュッとしがみつかれると、返事の代わりに大きな手で彼女の腰を引き寄せて、肩につく未茉の髪が降りてきてそっと翔真の大きな手で耳にかけてあげると、

次のキスが始まる。