軽井沢の気候とはいえ、夏は夏だ。午前からのハードな練習メニューを一番に終えて戻ってきた未茉のTシャツは絞れる程の汗だくだった。

「ぅあっちーシャワー浴びようかなっー」

タオルをブンブン振り回しながら鼻歌を歌いながら着替えを取りに部屋へ向かうと

♪♪♪…
ちょうど部屋につくと転がっていた自分のスマホが鳴ってたので、電話に出ると

「もしも…」
『お前さ、蝉とか昆虫とかの写メ送ってくるのやめろよな。』

「健兄!!」
挨拶もなく本題に入ってくる彼らしすぎる健の声に未茉は驚きから一気に喜びの声に変わった。

「あはは!珍しいだろ?昔はさ、よく一緒に探索に出かけたよなー!?」
『16にもなってまだ探索に行く女子高生はお前くらいだぜ。』

「なぁーんか、こっち軽井沢でみんなでワイワイやってると昔、匠兄と健兄と三人でパパの教室で遠征に来てたことおもいだすなぁ~。」
部屋のベランダに出て、目の前に広がる穏やかな森林を見つめながら、未茉は昔を思い重ねた。

『それ懐かしいな。ちょうど小学生の夏休みとかに行ったよな。で、帰ってきたら未茉のたまりにたまった宿題を手伝わされることがお決まりのパターン。』

「えー。そうだっけぇー?しかも健兄より匠兄が手伝ってくれた記憶の方があんだけど。」
『どの口がそういうこと言うんだよ!!お前人の日記丸写しだったくせに。』
「いーじゃん!!幼馴染みなんだからどーせ過ごした毎日は似たようなもんじゃんっ!!」

ベランダに寄り掛かり話していた未茉はくるっと部屋の方を振り返ると、
「!!」
寝起きの少し不機嫌そうな翔真が布団から起き上がりこっちを見ている。

「ぬぁんでぇっ!?」
ハッ!!!と
『あ?どうした?』
未茉は思わず辺りを見回した。

(しまった・・・。)

ついつい自分の部屋かのように戻って来てしまった部屋は翔真達の男子部屋だった。


(携帯も昨日の夜からここに起きっぱだったからなんの違和感もなかったが・・・)

じーーっと細い目でこっちに視線を向ける翔真に
「ア…ハハハ・・・・」
ひきつり笑いをしながら翔真に微笑み後退りをしながら、部屋の扉へと向かう。

『なんだよ…お前。急に奇妙な笑い声浮かべて』
「えっ、ちょっと寝起きの熊に遭遇したから殺されないように笑顔で逃げようと思って。」
『あ?それがマジなら食われるぜ。』

「・・・・。」
(寝起きの熊・・・)
呆れた視線を送ると、腰を丸めた未茉が終始ひきつり笑顔で部屋を出ていった。