「僕の好きな言葉があって。」

静まり返った早乙女は唐突に話始めた。
「あ……うん?」
「あれは一年前かな。中学の総体の決勝戦である人がチームメイトに言った言葉があるんだ。」

きょとんとするも耳を傾ける未茉に記憶を呼び起こすように言った。

「相手は最多優勝経験を誇る名門私立中学相手に、東京のとある私立中学校が挑んだ勝負。」

「それって」
ぴんっときた未茉に微笑みず早乙女は話を続けた。

「残りラスト3分。当然ながらチーム全体の能力の差は歴然として20点差近くも開き、東京の中学チームはみんな諦めかけていたんだけど、背番号4番。ただ一人彼女だけは諦めなかった。」

「……おう。」


「己の実力と悔しさを滲ませながら自然と戻る足が遅くなるチームメイトの一人に彼女は怒った。」
「うん。怒ったね」
あははっ。懐かしいやと未茉は笑った。

「あと三分!逆転の可能性は絶対ある!諦めんなよって怒鳴る彼女に、
もう無理だよ。奇跡でも起きない限り絶対に無理だよ。
ーーそう泣き出すチームメイトの胸元を掴んで彼女はある言葉を放ったんだ。」


ピンポンパンポーン……
『まもなく二番線に新幹線が到着します。』
強い風と共に新幹線がホームへと到着し、早乙女はベンチから立ち上がり、振り向いた。


「奇跡っていうのは、最後まで諦めなかった奴だけが起こせるんだ。」


諦めかけていた静香の胸ぐらを掴んで言ったその言葉。
「そっからまさか巻き返して試合終了のブザーと共にシュートを決めて逆転勝ち。」
開く新幹線の扉に乗り込みながら、早乙女はホームにいる未茉に微笑む。

「あれは生まれて初めて僕が見た奇跡かもしれない。」

その時、ベンチで泣きじゃくってた莉穂にも同じセリフを言われたことを思い出した。
『扉が閉まります。白線の内側まで……』
アナウンスが流れ未茉は白線の内側まで下がるも、早乙女は頷くように言った。

「だから僕も白石さんのこと最後の最後まで絶対に諦めない。今度は自分の手で奇跡起こしてみせるよ。」

「早乙女!!!」
名前を呼んだ時には扉が閉まってしまった。
「あ……」
さっきまでの寂しそうな目をしていた早乙女とは別人になっていつもの純真で真っ直ぐな笑みで扉の向こうから手を振り新幹線は発車した。