十年間憧れ続けた兄がわりの健からのキスにも、今一番近くにいる翔真から与えられたドキドキにも、何も考えることもなく、むろん寝不足にもならずに、
「グガッーーッ」
未茉はイビキをかいて大股を開きベッドから落ちながら寝ていた。
「ねぇーちゃん!!起きろよ!!!朝だぞっ!!!」
「フガッ・・・」
部屋に入ってきた和希に枕でバコバコと頭を叩かれ、未茉は渋々体を起き上がらせ、
「いてぇーよもー馬鹿和希……」
ふぁぁあっと大あくびをしながら体を伸ばして時計を見ると、
「ゲッ!!ヤバッ!!8時じゃんっ!!!」
「結城達もさっき起きて慌てて出ていったぞ。遅刻だーって。」
「そりゃ遅刻だよっ!!!」
未茉もガバッと起き上がりさっさと支度を始めると、
「ねぇちゃん、湊いつ帰ったんだろ。」
「へ?湊?」
「朝いなかったんだよな。結城達も知らねぇって。夜中一人で帰ったのかな?」
「そーなんじゃん。」
「電車動いてないのに?」
「てかそれより和希!急がなきゃ!納豆ご飯でいい!?」
「えぇーっ!!口臭くなんじゃん!」
「喋んなきゃいーだろ!!」
「できるか・・!!」
部活に遅刻しそうな未茉はそれどころじゃなく、洗面を済ませて慌ててキッチンに入ると、
「ん。なんだこれ」
足元には定期ケースが落ちていて、中身を見ると翔真のものだった。
「ああ、あん時落としたのか。」
あん時、あん時、あん時……
ふと‘あん時’が頭の中で蘇る。