「桐谷、三年の私の願いが聞けないの?ねぇ?」

「う・・・はっはい」
「やったぁぁっ!!!」
渋々頷く桐谷に新垣のナイスフォローに未茉は両手であげて無邪気に喜ぶと、その声は体育館中に響いた。


「うるさいな・・アイツは」

前原が呆れるように睨みながら、練習する未茉を見ながら言うと、

「私、絶対あの子のこと好きにはなれない。本当に嫌い、ムカつくし。」
それでも拒絶感の否めない矢野に前原は意外にもそれでいいんじゃない?と頷いた。

「うん。私も別に好きじゃないし。どちらかと言うと嫌いっていうかイラッとするタイプ。」

「え、そうなの?」
「当たり前じゃん。スター兄弟とは仲良しだしさ、ムカつく。」
「ああ・・そこかなり重要な!!」
益々嫌いになる矢野は細い目で未茉を睨むと、

「嫌いなくらいがちょうどいいのよ。」
「え?」

「ムカつくくらいがもっとバスケ上手くなろうって思えるでしょ?」
逆境を味方に変えるような静かな闘志を燃やす前原に矢野は驚いた。

「ただ矢野が言ったように天才なんだからもっと楽にプレーすればいいのにって思うのよ。例えば湊みたいに。それをアイツはしないからまたムカつく。…でも一つ凄いと思うとこがそこなんだと思う。」

「……」
‘なんで明徳に来たの?’と言ってしまった自分の言葉を矢野は思い出した。