‘……なんなんだよ。三年も監督も!私達はバスケをしたくて入部したのに掃除と外周ばっかり!!コートにも入れさせてもらえないのかよ’


一年前、入部して数ヵ月たってもボールを触らせてくれない苛立ちが爆発して矢野がモップを投げつけると、
‘矢野。三年を黙らすくらい上手くなって強くなって全国行こうよ。それで見返そう。’

文句しか出てこない二年の中で唯一、黙々と掃除していた前原がそう言ったのを矢野は思い出した。

思い出せば、不平不満を一切漏らさなかったのは前原だけだった。
その代わりに誰よりも一番練習し続けたのも前原だった。

その姿をどこか尊敬する半面、うちらとは違うって区切りつけられたのかと思ってた。
二年で一人スタメンに選ばれてたから。

‘鈴木さん達の現三年も前の三年らから辛い思いさせられたのに、二年の私がスタメンを暖かく受け入れてくれた。試合には出れない二年の分まで私が頑張る。’

そう胸を張る前原を仲間であり友達でもあったのに心の底から本当に応援できずにいた自分自身が本当は嫌だった。

ずっと一緒にやってきた自分達より白石と息のあったプレーを見せつけられて寂しい気持ちを持つ自分が嫌だった。

ただでさえ言葉数少ない前原が、何を考えてるのか分からず離れてくのが本当は怖かった。


「………」

一番言いたい言葉が出てこない代わりに矢野の頬には、ぽたぽたと涙が溢れ出た。

「矢野……」

そしてその涙につられるように前原の目にも涙が溢れた。