「前原……!」

矢野達二年が体育館の扉を開けると、まだ足に包帯を巻きながらも、キタローと一緒にモップ掛けをする前原の姿を見つけて驚いた。

「……矢野。」
前原もその姿に振り向き手を止めて、立ち上がり二年達の元へゆっくり向かった。

「……」
一年達を指導しながら練習していた未茉もコートから抜けて目をやる。


「無責任に辞めるって言ってごめん。でも退部はしない。」

「……」

「入学当時からずっと夢だった全国に行きたい。……ここにいるみんなで。」

「!」
‘みんなで。’
その言葉に未茉は思わず駆け寄った。
「それって二年もあたし達一年も入ってる!?一緒にーー」とまだ言いかける途中で前原は頷いた。


「黒歴史は私が立ちきる。絶対キャプテンとして明徳歴代ナンバーワンチームを作る。」

「前原さん……!!」
キタローや未茉を始め一年達がその冷めた表情とは裏腹の力強い意志の秘めた言葉に心打たれてその姿を見つめる。

そしてまた隣のコートにいた男子達も足を止め、視線を送った。橘はようやく重かった一歩を踏み出せた前原に頷きながら見守った。


「矢野。だから今度こそ着いて来てくれない?」

「……」
二年は黙っていた。
背を向ける矢野の決断に全てを託すように。