「おいっ!!前原さんが行くとこはバスケ部でだろ!?」
「……!」
大声で呼び止めると、一瞬前原の後ろ姿はビグッと震えたが、
「もう辞めたの。ねぇ相手にしなくていいから行こ。」
逃げるように前原は再び歩き出すと、


「前原さんは、まだ辞めてないですよ。」

「……!翔真!!」
息を切らしながら追い付きやってきた翔真の姿に前原は振り向いた。

「矢野さん、まだ退部届け出してないです。だから…まだ明徳女子のキャプテンは前原さんです!!」
‘野村監督に聞いたら矢野はあの退部届け預かったまま出してないってさ。’
橘の言葉をそのまま翔真は前原に伝えた。


「みんな…、キャプテンが来るの待ってますよ!!」

「…」
「そうだよ!!鈴木キャプテンから任されたんじゃねぇのかよ!!簡単に投げ出すなよ!!」
未茉もそう訴えかけると、前原には鈴木から託された言葉が頭に過った。


“前原、あなたなら私以上にこの明徳まとめられるって信じてる。みんなを宜しくね。”


「互いに素直になれないだけで本当は前原さんが戻ってくるのを矢野さんは待ってますよ。今度こそ一緒に全国目指す為に。」

「……」
その心に突き刺すような言葉に足を止めて俯く前原の頬には気づくと涙が溢れていた。

そんな様子に気づいた男は、ため息をついて微笑み、
「帰りな。また息抜きしたくなったら遊ぼうぜ?」
そう肩を優しく叩くとすっと消えていった。