「……」
彼女の心の奥までかき乱された数秒前のやりとりが嘘のように健の気持ちは未茉ではなく、全国の舞台にもうある。

全国ーー夏のインターハイ二連覇。

重圧とプレッシャーをチームを大きく左右するエースとして一人重くのし掛かるも背負う男らしく凛々しいその横顔が太陽よりも眩しく、遠く見えた。

誰よりも恵まれた実力と飛び抜けた才能があるのに決して甘んじない。もっと遥か上を目指そうと誰よりもストイックに努力し続けてたのを幼い頃から横で見ていた。

頂点に君臨しながらも更なる頂点に挑む華のある健が昔から大好きだった。


大好きで、ずっとその背中を追いかけてきた。


「いいな。全国」
普通に心底思った言葉が出てしまうと、
「嵐にも会えるな久々に。」
「おおっ!そうか!」
「アイツがMVP取るんだろうな今年は。」

「なんだよ弱気じゃねーか!!健兄なら取れるぜ。」
「おー。じゃあ、暴れてくるかな。」
「うん。」
家の前に着くともう何事もなかったような二人だった。
むしろ未茉は更なる高みを見せつけられた健に感銘を受けてたところで、



「あ、優勝したら俺のもんになれよ。」


「あっ!!?」

忘れかけてたのにまた突然スイッチを入れてきた健は、二ッとしながら‘忘れんなよ’と言わんばかりに言い放つと、

「そんないい男なら振れるわけねぇだろ!」
「ははっ!よし。言ったからな?」

「おう健兄!!頑張って!!」

未茉の言葉にクールな笑みを浮かべて、
‘行ってくる’と、リストバンドをした手を空高く掲げて彼はインターハイへ向かった。


その眩しすぎる光の向こうに消えてく背中に追いつくように頑張ろうと未茉は、遠く見えなくなるまで彼を見つめて自分を奮い立たせた。