レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

リディアはデニスをチラッと見る。彼はまだとぼけられると思っているようだが,リディア自身はこれ以上ジョンを(あざむ)き続けるのは心苦しいと思っていた。
「あの,姫様?姫様とデニスとは,本当に昨夜,何もなかったのですか?」
「あのな,ジョン。実はさ――」
「待ってデニス!わたしから話すわ」
口を開きかけたデニスを遮り,リディア自ら本当のことを話し始めた。
「わたしとデニスは昨夜,想いが通じ合ったの。口づけはしたけど,それだけよ。黙っていてごめんなさいね。ショックだった?」
もしかしたら,ジョンを傷付けてしまったかもしれない。彼もまた,自分に好意を抱いているかもしれないのだ。まだハッキリとそう伝えられてはいないけれど。
「……そうでしたか。俺も何となくは,そうじゃないかと思っていました。お二人はずっと昔から,(たが)いに想い合っていたんじゃないか,と」