レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

リディアは自分が負けない自信があるからこそ,あの男との勝負に乗ったのだ。――デニスはそう思った。
けれど,彼女は剣を持ってきていない。どうするのだろうかと,ジョンが心配していると――。
「リディア,オレの剣を使えよ」
デニスが自分の腰に装備していた剣を,鞘ごと彼女に手渡した。
「オレが使ってる剣は,近衛兵専用に(あつら)えられたモンだ。鞘には金属の板が()りつけられてて,盾代わりに使えるぜ」
なるほど,リディアが受け取った剣は,普段彼女が使用している剣よりもズシリと重みを感じる。それは,こういう理由からだったのか。
彼の厚意と,この剣を打った「名工(めいこう)」といわれる鍛冶(かじ)職人の想いを受け止めたリディアは,この剣を(たく)してくれたデニスに礼を言った。
「ありがとう,デニス。これ,遠慮なく借りるわね!」
デニスは大きく頷く。この町の,そしてプレナの運命は皇女リディアに託された。