レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

「そうね。――ところでジョン,一つお願いがあるんだけど。この旅の間は,わたしのことを名前で呼んでほしいの。昔みたいに」
「はあ。では,『リディア様』と?」
「うーん……。まあ,それでいいかしら」
一応は名前で呼んでもらえたので,リディアは納得した。けれど,内心では「“様”はいらないのに……」ともどかしく思う。
(ジョンも,もう少し砕けた態度で接してくれたらいいのに。デニスみたいに)
……いや,デニスの場合は砕けすぎか。あまり()れ馴れしすぎるのも,どうかと思う。
(まあ,ジョンの場合は仕方ないわよね。家柄が家柄だし,彼自身もカタブツだから)
そんなわけで,「姫様」と呼ばれないだけでもよしとしよう,とリディアは思った。
――三人はそれぞれ,三頭の別々の馬に(またが)った。
馬術は男女問わず,皇族や貴族の(たしな)みである。また,帝国兵を(こころざ)す者が,一番最初に始める修行でもある。そのため,三人とも乗馬はお手のものだ。