レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

表面に可愛らしい花の模様が浮き彫りにされているだけの,茶褐色の髪留めは,確かに彼女の蜂蜜色の髪によく映える。けれど,華美(かび)なドレスと合わせてしまうと,この素朴な髪飾りは浮いてしまうのではないだろうか?
「そうかしら?」
「ああ。オレとしては,いつも使ってくれる方が嬉しい」
「……一応,考えておくわ」
――二人が厩舎の前に着くと,白のチュニックにネズミ色のベスト・茶色の革の下衣に革のブーツに着替えたジョンが先に来て,馬の毛並みを撫でていた。
「あら,ジョン。早かったのね」
リディアは思わず目を丸くする。自分達はそんなにダラダラ歩いていただろうかと,デニスと二人で首を(ひね)ったけれど。
「はい。姫様をお待たせするわけにはいかないと思い,城内の近道を使用人の方に教わったんです。お二人よりも早く,ここに着けるように」
(近道?そんなものが,この城にあったなんて!)
リディアは愕然(がくぜん)となる。生まれてこのかた十八年間,このレーセル城で暮らしてきたけれど,そんなことは全く知らなかった!
「それはいいけど。ジョン,お前の荷物も(たい)したもんだな」
デニスはデニスで,ジョンの大荷物に呆れていた。
リディアは女性なので,旅の荷物が多いのもまあ分かる。が,男のお前がなぜ⁉