レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

リディアには,それしか言えなかった。場を繋ぐだけの話なら,他にも山ほどあるだろうに。
(こうして見ると,デニスももう立派な大人の男性なのよね……。当たり前だけど)
デニスだけでなく,ジョンもだ。背がグンと伸びて,声変わりもして。体格もガッシリしてきた。
リディアも身長は伸びたけれど,それでも二人とは頭一つ分以上違う。話す時には,見上げなければならない。昔は身長だって,そんなに変わらなかったのに。
(……もう,子供()の頃には戻れないのね)
そう思うと,淋しさが増す。リディアが一人でしんみりしていると,隣りを歩いていたデニスが心配そうに見下ろして,顔を(のぞ)きこんできた。
「……リディア?どうしたんだ?」
「ううん,何でもないわ。心配しないで」
リディアは首をブンブンと横に振って,ニッコリ笑って見せたが,「あー,わたしってば可愛くない!」と内心では激しく後悔(こうかい)していた。
(どうしてここで,「心配してくれてありがとう」の一言が言えないのかしら?)
理由はきっと,照れ臭いから,である。
デニスの方だって,特に気を悪くした様子はなさそうだし。幼い頃から一緒にいて,言葉にしなくても彼女の言いたいことは手に取るように分かるからだろう。多分。