レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

「それでは,姫様。俺は急いで宿舎に戻って支度をして参ります」
「ええ。じゃあわたし達は,厩舎(きゅうしゃ)の前で待ってるわね」
「はい,姫様。では(のち)ほど」
――ジョンと一旦別れた二人は,城門の手前にある厩舎の方へとブラブラ歩き始めた。
「なあ,リディア。――お前,さ。ジョンのこと,どう思うよ?」
……は?何を唐突に。リディアは戸惑う。
「えっ?どうって……」
「いやあ,アイツって色男だろ?だから,リディアの結婚相手としてはお似合いなんじゃないかと思ってな。ホラ,幼なじみだし」
「それを言うならデニス,あなただって同じ条件だと思うけど」
彼だって,ジョンには負けるが端正(たんせい)な顔立ちだし((はだ)は少々浅黒(あさぐろ)いが),体格だってそこそこいい。幼なじみでもある。そして何より,リディアの想い人はデニスなのだ。
「というか,そんなこと,あなたが本心から言っているようには思えないんですけど」
「ああ,バレたか。本心じゃなくて,ただの場繋(ばつな)ぎで言っただけだ」
「……そう」