レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

きっと彼の中では今も,デニスへの嫉妬心や,家臣なのだから祝福せねばという忠誠心や,それでも(おさ)えきれないリディアへの想いがせめぎ合っているのだろう。
(やっぱり,後で話を聞いた方がよさそうね)
彼の気持ちがはっきりしなければ,安心してデニスと結婚できない。リディアはそう思った。それは,デニスもジョンも両方大切に思っている彼女の優しさからだった。
「――そして,二人の婚礼の日をもって,私は皇帝の位を退(しりぞ)き,リディアにその位を譲ることにしました。婚礼の日,新皇帝の戴冠式も執り行います」
お祝いムードが広がっていた広場は,イヴァン皇帝からもたらされた二つめの発表に,水を打ったようにしんと静まり返る。こちらもめでたい発表には違いないのだけれど,国民には「レーセル帝国にこの人あり」と言われているイヴァンの退位がよほど衝撃的だったらしい。