「そうか。まだ期間はある。じっくり考えるがよい。では,今宵(こよい)はゆっくり休みなさい。カルロスどのが発つのは,明日の午後だそうだ」
「はい。お父さま,おやすみなさいませ」
父が部屋を出ていき,一人になると,リディアは再びベッドに横たわり,目を閉じた。
今日一日,特に夕刻からは色々なことが起こりすぎて,まだ頭の中がゴチャゴチャしている。少し頭の中を整理しないと,今夜は眠れそうにない。
愛しいデニスが自分を庇ったせいで傷を負ってしまった。それが原因で,自分の中にも「殺意」という(みにく)い感情があると自覚した。
デニスの負った傷がかすり傷だと分かり,彼が生きていてくれてよかったと安堵する一方で,彼がこの世からいなくなってしまうことを怖いと感じた。それが,真実の愛なのだと改めて気づいた。
そして,彼との結婚を父に認められ,父から皇位を継承されることとなり――。
(……あ,そうだわ。軍の人事!)
デニスが近衛軍団長の任に()くことは,とりあえず内定した。となれば,ジョンにも何か地位を与えた方がいいだろうか?そうでなければ不公平かもしれない。