レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

ジョンは大柄だが,精悍(せいかん)な顔立ちは幼い頃と変わっていない。デニスも体格はいい方だが,背はジョンの方が高く,筋肉のつき方もジョンの方が厚い。特に,胸と二の腕あたりが。
「しばらくね,ジョン。帝国軍での鍛錬にはついて行けてる?」
「はい,何とか。――ところでお二人とも,その格好は?またお忍びで視察ですか?」
訊ねる,というより確かめているように,ジョンは質問した。それには,リディアではなくデニスが答える。
「ああ,まあな。これからシェスタまで行くことになったんだ。お前も来るか?」
「お願い!一緒に来てくれない?」
同じ兵士仲間のデニスはともかく,姫であるリディアにまで懇願(こんがん)され,ジョンは返答に困った。
彼はリディアに「姫様,ちょっとお待ち下さいね」とニッコリ笑いかけ,デニスの腕をグイッと引っぱって小声で抗議する。
「おい,デニス。また姫様を(そそのか)したろう!姫様の頼みを,(おれ)が断れないのを知っててわざと!」
(うやうや)しい態度を取るわりに,一人称が「俺」のままなあたり,彼はリディアのよく知っているジョンのままだ。