レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

ドヤ顔のデニスに訊ねられ,リディアは少し悩んだ後に答えた。
確かにジョンは今まで,リディアに「出かけましょう」と誘われたら,一度も断ることなく同行してくれた。けれどそれは,ただ単に忠誠心からなのか,はたまた本当にリディアと出かけたいからなのかは,彼女にも分からない。
「――そういや,話変わるけどさ。リディアももう年頃だろ?縁談(えんだん)の話とか来るのか?」
(年頃って……ねえ。あなたも同い年でしょう?)
リディアは,デニスの言葉に面食(めんく)らった。自分と全く同い年の人に「年頃」なんて言われると,変な感じがする。
「縁談のお話?ええ,山ほど来てるわよ。国の内外も,年齢も問わずにね。こないだなんて,名前も言語(げんご)も知らなかった遠方の国の貴族から,『息子を婿(むこ)入りさせたい』って言われたのよ。あれには参ったわ」
ため息をつきながら,リディアは答えた。
「皇女の婿」ともなれば,これ以上の逆玉(ぎゃくたま)はあり得ない。だから,近隣(きんりん)諸国の王族・貴族が子息(しそく)のために必死になるのは当然のことなのだろうが。当事者であるリディアにしてみれば,好きでもない男に(むら)がられるのはウンザリなのだろう。
「まあ,言葉の通じない婿さんを迎えても,困るだけだよなあ」
「ええ。――それに,わたしが結婚したい相手は,この国の中にいるのよ」
――そう。幼い頃からずっと,彼女はただ一人だけを想い続けてきたのだから。