「――それにしても,退屈ねえ……」
行儀が悪いと怒られそうだが,リディアは誰にとなくそう呟いて,ウンザリとテーブルに頬杖をついた。
「ねえ。今日はもう,他に来客の予定はなかったのよね?」
「はい。わたくしは特に伺っておりません」
大臣に確かめると,そう返事が返った。
改めて,彼女は盛大なため息をつく。(たい)してやることもないのに,城の留守を預かっている時ほど,退屈な時はない。
せっかく外は,うららかな春の陽気だというのに……。
「――そうだ,リディア。退屈してるなら,久しぶりに一緒に遠出しないか?シェスタまで。ジョンも(さそ)ってさ」
「え?」
デニスからの思わぬ提案に,リディアは目を丸くした。皇女に対しての不敬で(くだ)けた(もの)言いを,側に(ひか)えていた大臣は(こころよ)く思ってはいないものの,決してそれを咎めようとはしない。それは,この二人――皇女と若き近衛兵――が親しい幼なじみの関係であることをよく知っているからだろう。
ちなみにシェスタは,帝都レムルの南方に位置する,帝国一(さか)えている港町である。
リディアとデニス,そして現在は帝国軍一の大剣(たいけん)使いとして名を(とどろ)かせているジョンの三人は,時々城を抜け出し,そして時には馬を走らせて遠出するのだ。