「なに?リディアはオレに,『姫様』って敬ってほしいのか?」
「そっ……,そんなんじゃないけどっ!せめて,そのふてぶてしい態度は何とかして。今のわたしは,あなたの(あるじ)なんだから」
(……正直,デニスが昔のままわたしに接してくれているのは,幼なじみとしては嬉しい限りなんだけど。皇女,という立場を考えると,ね……)
慌てて言い(わけ)するリディアの胸中(きょうちゅう)は,複雑だった。幼なじみとしても,大国の姫としても,様々(さまざま)な感情が渦巻(うずま)いていたのだ。
そんな彼女の心中(しんちゅう)を察してか,デニスは短髪の頭をボリボリ()きながら,「参った」という顔で答える。
「んー,分かった。考えとくよ。ただ,この言葉(づか)いだけは直らないかもしれないけど。……それでもいいか?」
きっと,これが彼の考えた,精一杯の忠誠心なのだろう。リディアはそう思って,明るい表情で頷いた。
「ええ,それでいいわ」
ジョンが自分に敬語を使うようになってから,彼女はずっと淋しいという感情を(いだ)いてきたのだ。けれど,デニスは今まで通りに自分と話してくれるらしいと分かって,少しホッとした。
彼にまで壁を作られたら,リディアは孤独(こどく)感に(さいな)まれるかもしれない。