デニスと別れたリディアは,急いで城内に戻り,階段を駆け上がった。すると案の定,自室の前では侍女のエマが仁王(におう)立ちで待っていた。眉を思いっきり跳ね上げて。
「姫様っ!今までどこにいらっしゃったんですか!?心配して探し回っていたんですよ!」
「ゴメンなさいね,エマ。眠れなかったものだから,ちょっと中庭を散歩していたの」
ぷりぷり怒っている侍女に嘘をつくのも忍びなく,リディアは事実のみを伝えた。
(まあ,中庭にいたのは事実だものね)
……けれど,「デニスと逢引(あいび)きしていた」なんて言えるはずもないので。
「中庭を?お一人で,ですか?」
「え,ええ。もちろんよ」