レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

「どちらにしても,城内で二人っきりでこうして人目を忍んで会えるのは,この四阿だけね。しばらくは」
「そうだな」
デニスは指の動きを止めずに答えた。
リディアの執務中も,近衛兵であるデニスと二人になることは多い。けれど,侍女や大臣などの目もあるため,恋人同士として振る舞うことは難しいだろう。
「――ねえ,デニス。スラバットの人って,みんなあなたみたいに情熱的なの?あなたもスラバットの血を引いているのでしょう?お父さまから聞いたわ」
「ああ,確かにオレの母さんがスラバットの出身だけど。どうしてだ?」
スラバット人の特徴(とくちょう)は赤髪に茶色の瞳,そして褐色の肌だと,夕食中に父から聞いた。――ちょうど,デニスと同じようだと。
「王子からの手紙も,情熱的な内容だったから。……ちょっと読んでみて?」
リディアは既に開封済みの手紙をガウンのポケットから取り出し,デニスに差し出す。