レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

リディアは頷いただけで,咎めることはしなかった。実は宿舎に暮らす兵士達の,夜の外出は自由なのだ。
「隣り,座ってもいいか?」
「ええ,どうぞ」
リディアが場所を(ゆず)り,デニスは彼女の隣りに座る。その長椅子の上で,彼はリディアをしげしげと眺めた。
「そういや,リディアが髪下ろしてるの,久しぶりに見た気がする」
「えっ?そうだったかしら?」
彼女の長い髪は,下ろすと腰の辺りまでの長さがある。蜂蜜色をしたその髪は,今は月明かりに照らされて濡れたように艶めいている。
自然に,デニスの指が伸びた。彼女(なめ)らかな髪を指先でいとおしそうに撫でる。
リディアはそれを,「心地いい」とさえ感じた。彼の肩に頭を預け,このままずっとやめないでほしいと思った。