レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

絹の寝間着の上からガウンを羽織り,リディアは中庭の四阿(あずまや)に来て,一人物思いに(ふけ)っていた。素足ではなく,室内履き(スリッパ)を履いて。
――と,背後からコツコツ,とブーツの音がして……。
「……リディア?また眠れないのか?」
振り返ると,そこにいたのは――。
「……デニス。ああもう,驚かせないで!」
ランタンを手にしたデニスだった。安心したと同時になぜか怒りがこみ上げたリディアだが,その感情はすぐになりを潜める。
「あなた,宿舎を抜け出してきたの?」
「ああ。城から灯りを持った誰かが出てくるのが,部屋の窓から見えてさ。もしかしたらお前じゃないかと思って」
「そう」