レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

父が頷く。ということは,父を(うら)むのは筋違いということになる。――ただ,彼女にとって迷惑であることに変わりはないのだが。
「王子が来られるのは,いつなのですか?」
「十日後だと聞いた。その手紙にも(したた)めてあるとな」
十日後……。長いのか短いのか,微妙な日数である。
「――さて,じきに夕食だな。そなたは部屋に戻り,着替えてきなさい。デニスも昨日(さくじつ)より,ご苦労であったな。宿舎に戻って休むがよい」
「はい」
「では私は,先に食堂で待っている」
父がマントを翻して城内に入るのを見届けて,リディア自身も城内の自室に向かった。

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父と久しぶりに摂る夕食は,リディアにとって楽しみだったはずなのだが,あまり食が進まなかった。