――それから六年の月日(つきひ)が流れた。
リディアも十八歳。今では蜂蜜(ハチミツ)色の(つや)やかな長い髪と,紺碧(こんぺき)の瞳を持つ,美しい姫へと成長していた。
次期皇帝としての執務(しつむ)をこなしつつ,相変わらず幼なじみのデニスから剣の特訓も受けている。彼女の剣の腕は,もはや実戦でも役に立つかというくらい上達していた。
――この日は,皇帝イヴァンは隣国に出向いており,城の留守(るす)を預かっていた皇女リディアが,応接の()で客人と向き合っていた。
「――それでですね,皇女殿下(でんか)(わたくし)どもと致しましては,ぜひとも皇帝陛下(へいか)のお力添(ちからぞ)えを(たま)わりたく……」
客人は,海を(はさ)んだ対岸に位置する,レーセル帝国の庇護(ひご)国・プレナよりの使者で,近頃国民を悩ませている荒くれ者達への対処に帝国の力を借りたい,とのことだった。
ティーカップを手に,相槌(あいづち)を打ちながら客人の話に耳を(かたむ)けていたリディアは,優雅(ゆうが)仕草(しぐさ)でテーブルにカップを置くと,そろそろと口を開く。