-キャンサー王国 キャンサー爵邸

静かな草原にポツンと座る少女は、手を合わせ、悲しそうな表情を浮かべている。

「お母様……………。」

ユズハの手を合わせるその先に、ツタが絡まり佇んでいるお墓は、重々しい雰囲気を取り巻いている。

あの日……
お母様ではなく、私が殺されていれば、お母様は殺されることはなかったのに……。

ガサガサ……。

「……誰?」
「俺だよ…。カイア。」
「カイア様……。」

振り向くと、アクエリアス王国の王子、
カイア・アクエリアス様が立っていた。

「大丈夫?」
「え、あ、えぇ。
ご心配なさらないでください。……これくらい、よくあるものですから……。」
「そう……?またあの時のこと思い出してたんじゃないの?」

カイア様…………。
カイア様はひとつため息をついて、

「それに……。俺のこと”様”付けして呼ばないでよ。
”幼なじみ”だろ?」

くしゃっと頭を撫でられる。

「……でも、もう私は…………!?」
「ほら〜。」
「な、何をぉっ!?」

カイア様に強引に顔をあげられ、両手で顔を挟まれる。
し、喋りにくいです!

「は、離ひてくだはいっ」
「ユズハは笑顔が一番似合うんだから。
笑って。……ね?」

そう言うと、カイア様は、離してくれた。

「……こんな時に……笑えるわけ…無い。」

下を向くと、

「……それはそうかもしれないけど。
天国にいるレア様もユズハの笑顔をきっと見たがってるって。
ユズハがそんな泣いてばっかりだと、レア様も困るぞ。」

カイア様……。

「えへへへへ…。」
「まぁ、今はそんぐらいでいいんじゃない?」

カイア様は、私の手を取り、近くにあった水溜まりの上に立った。

「じゃあ、帰ろっか。」


私たちは、水溜まりの中に吸い込まれていった。