「風月っ!」


ふらふらと歩いていると、後ろからいつもの声が聞こえた。

なんだろうか、そう思ったけれどもまた、いつもと同じだと部下である如月君の顔が脳裏を掠めた。


「あは、こっわ」


後ろを振り向けば鬼の形相でこちらを見ている彼。


「はァっ!? 怖いというのなら俺を怒らせるな! ちゃんとやれ、ちゃんと!」


どうやら聞こえていたようだ。


「アンタ仮にも幹部だろ!?」
「問題」


ぴたりと立ち止まってにやりと笑う。

如月君の頭には疑問符が浮かんでいる。


「その幹部にため口を聞いているのはどこのどいつでしょう?」
「うっ……」
「一、如月君。二、如月君、三、如月君。さぁどうぞ?」
「全部俺じゃねェかよォ!」


唸っている如月君にふふ、と笑みをこぼしてジョーダンだよとつぶやく。

頭がお固い如月君は立ち止まりなんとかして答えを出そうと頭を絞った。

本当に、あの子は頭が固すぎる。

少しは柔らかくしなくちゃ。それこそ豆腐みたいにな。

いやでも豆腐を固豆腐にしたら固くなっちゃうか。


「ま、それが彼の良いところでもあるんだよなあ」


俺みたいに、路地裏で耳を抑えしゃがみこみ怯えるふりをして罠にかかったネズミににやりと笑い銃を構える。

そして両手を血で濡らす。

俺が腕を一つ下ろせば敵に弾丸が向く。

部下に何度も弾倉に銃弾を装填させ“それ”を繰り返す。

そんな世界にいなくとも彼はきっと賢いから講師になれただろうに。

ふわりと風が吹き草が囁く。

俺の長い長いコートを揺らし風に乗って、俺の髪が頬を滑った。