「あと、同じ理由(過去のケリ)で、アンタの遺産も、預かってる」

それは、あの時組織に奪われたため…
仁希が用意したもので。
いつか適当な理由で返してほしいと頼まれていたのだ。

倫太郎はそれを収めた金庫を指差し、暗証番号を伝えると。


「だからアンタは、仁希さんのケリに、報いるためにも、幸せんなれよ?」

だんだん意識まで朦朧としながらも。
感覚が無くなってきた手で、必死に望の手首を掴む。


「嫌っ…
嫌よお願いっっ」
呼吸が浅くなってる状態に、激しい焦燥感で気が動転する望。

「だったらずっと側にいてよっ!」

「…アンタもはもう、だいじょぶだよ。
ちゃんと、立ち直って、新しい人生、向かってる。
それとも、俺の慰めじゃ、ダメだったか?」

「ううんっ、倫太郎のおかげよっ?
だからっ、」
「よかった」
望の言葉を遮ると。

「仁希さんとの、約束果たせて…
これでやっと、楽んなれる。
アンタの、お守りから」
そう突き放して、心で続ける。

どんなに想っても、決して手に入らない苦しみから…
人の女に(いだ)く、この狂いそうな想いから…


そう、倫太郎にとって望は…
一時的に鷹巨のものになったものの。
ずっと仁希の女という位置づけで。