「…………」


 千絃はピクリとも表情を変えずに響を見た後にドアを閉めた。そして、鍵まで閉めた後に、ゆっくりと近づいてきたのだ。
 着替える途中だった響は下着にキャミソールだけという、とても人には見せれない格好だ。


 「ち、千絃………私、着替えてる途中だから……」
 「………」


 響が必死に止めるけれど、千絃は全く足を止めることなく近づいてきてしまう。そして、とうとう響の目の前にやってきたのだ。そして、響の事を見下ろした。いつもとは違う。大人の男のギラリとした目だ。

 その途端に響の体はゾワッと震えた。それは怖さなのか、次の事を予想して期待してしまっているのか。響にはわからない。
 
 千絃の事を瞳だけで見つめ、服を強く掴む。
 すると、千絃の手がこちらに伸びてきて、腕を掴まれる。
 いつもと同じだ。また、キスをされるんだ。
 わかっているはずなのに、強く拒絶出来ない自分がおり、響は唇を強く噛み締めた。


 「……そんなに唇噛むなよ………」


 千絃の長い睫毛が、キラキラとした瞳がとても近くに見える。それほど近い距離で、千絃は囁くようにそう言った。その声は、とても優しいもので、着替えを襲っている人とは思えないほどだった。響の唇に彼の親指が触れる。歯から守るように唇をゆっくりとさすっている。