33話「溶けたアイスクリーム」




 「とても似合っていますね。かぐや姫を初めて見た男性はこんな気持ちなのかもしれませんね」
 「…………和歌さん、ふざけすぎです」
 「私はいつでも正直者ですよ」


 響は照れ隠しでそう言ったけれど、それも上手くかわされてしまい、ぎこちない笑みを返すしか出来なかった。


 響は、改めて着物を見つめる。うぐいす色の淡い緑に黄色やピンクなどの花が描かれ、小鳥も飛んでいる生地はとても華やかだった。明るすぎない色は落ち着きを感じさせる。帯は白いもので、こちらも花に刺繍が入っていた。どことなく和歌のものと雰囲気が似ているなと思い、ちらりと彼の帯に目を向けると和歌はそれに気づいてにっこりと笑った。


 「たぶん、その帯は私と同じ人が作ったものでしょうね。私が好きなものです」
 「わかっていただけましたか。先生が大好きた柄だと思って。帯はお揃いにしましたのよ」
 「それは嬉しいですね」
 「とってもお似合いですわ。やはり私の見立ては完璧です」
 「えぇ、本当に。では、頼んでいた足袋はこちらの住所にお願いします」

 
 そう言うと、和歌はさっさと手続きや会計を済ませてしまう。仕事の支払いだと言っていたが、きっと響の着物は和歌自身の買い物になるはずだ。この場で断りを入れるのは良くないと思い、響は着物を選んでくれた女性に見送られた後、すぐに和歌に声を掛けた。