そこからの僕らは本当に穏やかにただ幸せに過ごしていたと思う。

喧嘩も争い事はなく順調そのもの。

ただ1つ不満に思っている事と言えば
なるの愛情表現が足りない事くらいだろうか。

好きだと言われたのは告白した時の返事「ごめん。好きだよ」きりで、それ以降言われていない。


そこで僕は男の師匠とも崇めるミスタースケコマシ
早川先輩に相談をしていた。


バイト先の近くにある居酒屋BARが行きつけな早川先輩は
カウンターのいつもの席に座って待っていた。


「お疲れっす!」
僕はすぐさま隣に座った

「おーたくみ。お疲れ」

早川先輩はタバコを吸いながらニヤッと笑う

カウンターの中にいる店員の女の子は早川先輩に夢中で「ハイボールです」っと先輩に差し出した。

「ありがと。こいつには生ビールね」

「はい」
店員はちらっと僕を見るとすぐに目を逸らした。

20歳になったばかりの僕は先輩にお酒を教えてもらった。
ビールの苦味は正直美味しいとは感じない
ただ、夏場の暑い時期に喉にグビグビ入っていく爽快感は何とも言えないものである。

「んで?なるちんとなんかあった?」
僕を横目に先輩はハイボールを流し込む


「えっと…どうしたら彼女は好きって言ってくれますかね?」


「はぁ??」
先輩は僕の質問に思わず吹き出す


「いや。あのその…もっと何か甘えて欲しくて。
なる、全然クールって言うか
デレデレってしてこないんですよね。
普通恋人ともなるとニャンってこう…ニャンってなりません??」

僕の真剣な表情に先輩は引いている様子だ

「んーニャンってのがよく分からないけど
たくみが年下だから、こうしっかりしなきゃ!ってなってるんじゃね?
ほら、なるちん真面目だから。
そこも可愛いけどね、俺的には」


「可愛いっすよねぇ。
まじで手出さないで下さいよ!早川先輩」

ついなるの顔を思い出しニヤける僕
それを見て先輩は呆れていた


「にしても、なるちんはたくみの何が良くて
付き合ってんの?
ここに俺みたいなイケメンがいるのにさぁ」


確かに…
僕はイケメンではない。どっちかって言うと
顔はもさっとしているし、髪の毛も服装も
オシャレとはかけ離れている。
一方早川先輩は、顔はつるんっとたまごのように
キレイで、整った顔、髪の毛は2週間に1度必ず
切ってもらうほどオシャレに敏感で
服装はシンプルなのが返って良く見える。


「僕が頑張れば、年下っていう概念を吹き飛ばせますかね?」


「どう頑張るの?」


「僕、痩せます!先輩みたいにシュッとして
髪の毛も服もオシャレにして!
あと、しっかりしてる所見せれば
なるもきっと安心して甘えてくれますよね?」


「ん〜どうかなぁ。それは。」

先輩は困った表情でタバコに火を着けた
煙が微かに目に染みる


「僕、やってみます!」

僕は今まで、自分になんて興味なかった。
でも、もし僕が変わって
なるの隣にいるのが自然になれば
もっと関係は深まるんじゃないか。
僕が変われたら、君を纏う空気もきっと変わる。

そんな事をただガムシャラに考えていた。