「今帰ってきてシャワー浴びたとこだったんだよ」

 颯ちゃんはそう言って、首にかけていたタオルで頭をわさわさと無造作に拭いた。

 妙にどきどきして、わたしはうつむいてしまった。

 子どもの頃は、遊びに来たついでに、颯ちゃんがわたしの家でごはんとお風呂を済ませていくこともあったし、逆もあった。
 だから慣れっこのはず……なのに。

 促されて、家にあがる。
 考えてみれば、颯ちゃんの家にお邪魔するのも随分久しぶりだ。

 中学生になってから、わたしたちが、お互いの家を行き来して遊ぶことはなくなっていた。颯ちゃんのほうが先に、うちに来るのをやめたんだ。

 あれは、初めての中間テストの時。
「うちで一緒に勉強しよう」と誘ったら、「ひとりでやるから」と断られて。
 それから何となく誘いづらくなってしまった。

 颯ちゃんのほうも、男子の友達ばかり自分の家に呼ぶようになったから、わたしは遠慮して気軽に訪ねていけなくなった。

 でも、女の子の友達は……、呼んでいなかったように思う。
 颯ちゃんの家の敷地に停まっている自転車は、陸上部の男子のものばかりだった。いつも同じメンバーだったから覚えている。

 ふいに、いつか森下くんに言われたせりふを思い出した。

「颯太に彼女ができたらどうすんの?」って。

 何で今、そんなことが脳裏に浮かぶんだろう。

 わずかに、胸の奥がざらついた。

 キッチンでおばさんが料理をしているみたいで、家じゅうにカレーのスパイシーな香りが漂っている。

「母さんいるから、二階に行く?」

 遠慮がちに聞かれて、わたしはうなずいた。

 パウンドケーキをあげるだけなんだから、部屋にまであがりこむ必要はないんだけど……。
 もし颯ちゃんに思い悩んでいることがあるんだったら聞き出したいと思っていたし、ひさしぶりに入る颯ちゃんの部屋がどんな風に変わっているのか、知りたい気持ちもあった。

 でも。