時間がゆっくりと流れる。

 どこかの教室から笑い声がこぼれて来る。
 女子生徒のグループが、大きな声でおしゃべりしながらわたしたちのそばを通り過ぎていく。

 やがて颯ちゃんは、沈黙を破った。

「吉井は、由奈のことが大好きなんだよ」

「わかってる」

「なんかあった時、絶対由奈のことかばってたろ?」

「……うん」

 わたしがクラスで浮いた時も、リーダー女子に目をつけられた時も、絶対に絵里は味方だった。

 絵里と初めて話したのは、小学生の時。
 教室にお花を持ってきて飾っていることを、颯ちゃん以外で初めて気づいたのが絵里だった。

 すぐに仲良くなった。
 性格は正反対なのに、一緒にいるとふしぎと居心地が良かった。
 お互いの家に泊まりに行って、いつまでもおしゃべりした。  
 いろんなところに、ふたりで出かけた。
 同じ塾に通って、励まし合いながら、一緒に受験勉強した。
 高校に合格して、うれしくてふたりで飛び跳ねた。
 クラスも一緒になった。手を取り合ってキャーキャー喜んだ。

 思い出、全部が宝物。
 ……なのに。

「あとは、由奈が決めな。吉井のことを許すのか、許さないのか。このまま離れていくのか、それとも」

「……うん」

「吉井といるのがしんどい気持ちも、わかるから」

「うん」

 颯ちゃんに話を聞いてもらって、絵里とこれまで積み上げた時間に思いを馳せて。

 やっぱり、親友に戻りたい。

 そんなふうに、わたしは思った。

 だけど、……自信がない。
 森下くんと恋人同士になった絵里と、これまで通り屈託なく接することができるのかな。

 わたし、平気なのかな。