川べりに集う人たちの、更にその向こう、どこか遠くに思いを馳せているように見える。

「幼稚園の帰りに、親父に駄菓子屋に連れてってもらってさ。アクセサリーのおもちゃがついてる菓子、あるだろ? あれをねだったんだよ」

「へえ……」

「たまにだけど、親父が仕事休みの時、迎えに来てくれることがあったんだ。そんな時は、決まって、駄菓子屋で好きなもん買ってくれてた。お母さんには内緒な、とか言ってさ」

 湿気を含んだ風が、川面を渡って吹いてくる。
 颯ちゃんの前髪も、さらりと揺れている。

「あの時。俺が、まっさきに指輪つきの菓子ねだったのを見てさ。親父、すぐに『由奈ちゃんにあげるんだろ?』って言って、すげー笑顔になったんだよ。俺、ガキだったけど、めちゃくちゃ恥ずかしくて。何だろう、見透かされてんのがたまんなかったんだろうな」

「見透かされてるって?」

 俺の気持ちを、だよ。
 と、颯ちゃんは答えた。

「颯太は由奈ちゃんのことが好きなんだな、って言われてさ。むちゃくちゃ否定した。ちがうし! とか言って拗ねて。そのくせ、ちゃんと由奈に渡したろ?」

「う、うん」

「俺、たしかに由奈のこと好きだったんだ。あの頃、すでに。それを親父がからかうような言い方したもんだから、腹が立って」

「へ、へえ」

 気の抜けた返事しかできない。
 まさかそんな小さい頃から、颯ちゃんがわたしのことを……。

「その時さ。好きな子にはむちゃくちゃ優しくするんだぞ、由奈ちゃんのことは颯太が守るんだぞ、って親父に言われた」

 颯ちゃんは苦笑する。

「今思えば、どの口が言ってんだよって感じだよな。自分はさんざんおふくろのこと泣かせといて。ま、当時はまさかそんなことになるなんて、親父自身も思ってなかったんだろうけど」