その時。
 電子音が鳴り響いて、わたしの言葉をさえぎった。

「……あ。ごめん、電話」

 颯ちゃんは、われに返ったようにぱっとわたしから顔をそらして、自分のリュックからスマホを取り出した。

「母さんから」

 低い声でつぶやくと、わたしに背を向けて、電話に出た。

「うん。そっか。良かったじゃん」

 ぼそぼそと受け答えする颯ちゃんの言葉の断片は、わたしの耳にも入ってきてしまう。

「あ。いいよ俺は。別に、見なくても。母さんに任せるから。決めちゃっていいよ」

 わたしは身の置き所がなくて、小さく縮こまっていた。

 決めちゃうって、何を?

 通話を終えた颯ちゃんは、わたしのほうへ向き直ると、

「新しい家、決まった」

 とだけ、告げた。

「そう、なんだ」

 すうっと、からだの熱が引いていく。
 現実に、引き戻される。

「うん。少しずつ荷造りもしないとな。忙しくなる」