好きだと自覚したからって、恋人になりたいだなんて高望みはしないから――。ただ仲良く、笑っていられる関係を崩したくなかった。



「桜」



教室に、万里くんの声が響いた。

いつものように迎えに来てくれた万里くんに、私はいつものように笑顔を向ける。



「帰ろっか?」

「うんっ……!」



本当は、顔を見た瞬間に胸が締め付けられた。

こんなに近くにいるのに、万里くんが遠すぎて……。

恋って、こんなに切ないものだったんだ……。



「桜?」

「……っ、は、はい! どうしたの?」

「……なんかあった? ぼーっとしてるけど……」



そう言って、私の顔を覗き込んでくる万里くん。至近距離に、私は思わず後ずさった。

どうしよう……自覚したら、ドキドキしてしまって、仕方ない……。

万里くんには好きな人がいるんだから、早くこの気持ちは消さなきゃっ……。