近くて遠い私たちは。

 梯子の下から、ハァ、とサクの溜め息が聞こえた。

「親父の事は、確かに嫌悪しか感じないと思う。アイツはもうずっと前から、美紅をそういう目で見てたから」

 サクの話をノロノロと理解して、「え?」と訊き返した。

「どういう事?」

 サクは一度キッチンへ煙草と灰皿を取りに行き、テーブルの椅子を引くと私に背を向けて座った。

「俺が実家を出て、少しした頃から。……親父はお前をオンナとして見るようになったんだよ」

 言いながらサクは手にした煙草に火を点けた。

「何でそんな事……兄貴に分かるのよ?」

 ーーそばに居なかったくせに。

「日記だよ」

「……日記?」

 私は布団から抜け出し、梯子を降りた。背中を向けたままで紫煙を吐くサクの、正面に座った。

「日記ってなに?」

「何ってそのままの意味。親父には昔から日記を付ける習慣があるんだ。それを俺が盗み見た」

「お義父さんの、日記を……」

 そう呟いた所で、サクが実家に帰る度に義父の部屋に入っていた事を思い出した。

「お義父さんの部屋に無断で入ってたのは、日記を見るため?」

 サクは咥え煙草でジッと私に目を向けた。肯定も否定もしないけれど、その()は確かに「そうだ」と告げていた。

「私……兄貴がお義父さんの部屋に入るのは、お義父さんのお金を盗むためとか……そんな風に思ってた」

「だからお前は馬鹿なんだよ」