近くて遠い私たちは。

「言っとくけど、布団が臭いとか文句は無しな? 我慢しろよ」

「ふふふっ、なに馬鹿な事言ってるの」

 敷きっぱなしの布団に入ると、ふわっと立ち上るサクの匂いに包まれた。さっき抱っこされた時に感じたサクだけの香りだ。

 ーー幸せだなぁ。これだったら毎日ここで眠りたい。

 鼻先まで掛け布団を上げて、目を瞑る。

 すると、不意にさっきの義父の言動が脳裏に蘇り、パチリと目を開けた。

 ーー「美紅の匂いはたまらないなぁ、やっぱり本物は違う」

 義父の言葉を思い返すと、ぞくっと鳥肌がたった。

 あの言い方は以前から私の匂いを知っていたという事だ。私の居ない隙に部屋に入るなりして、私の私物を触っていたという事だ。

 どんよりと重い不快感が広がった。

 私が今、サクの匂いに幸せを感じているのも、もしかしたらサクにとっては気持ちの悪い事かもしれない。

 私は布団を下げて、ムクリと起き上がった。

「どうした美紅、眠れないのか?」

 部屋の電気は既に豆球だけの明かりにしていたが、サクはまだ横になっていなかったらしく、電気がパッと点く。

「お、義父さんに。私の匂い嗅がれたのを思い出したら……なんか。気持ち悪くて」

 サクの匂いが染み付いた布団をキュッと握り締め、私は続けた。

「そう思ったら……私が兄貴の匂いを嗅ぐのも……兄貴にとっては気持ち悪い事なのかなって……そう思っちゃって」