近くて遠い私たちは。

 首筋に義父の吐息を感じて、背筋がぞくりと粟だった。

「……ん、ハァ。美紅の匂いはたまらないなぁ、やっぱり本物は違う」

「……ッ!!」

 ーーイヤだ、イヤだ、イヤだ、気持ち悪いっ!!

 誰か助けて……っ

 サクっ! サク……っ!!

 瞑ったままの目から涙がこぼれ落ち、私の頬を伝った、その瞬間。

 バタン、と勢いよく部屋の扉が開いた。

「なにやってんだッ!? このクソジジイッ!!」

 あっという間の出来事だった。

 いきなり部屋に駆け込んだサクが義父の襟首を引っ掴み、無理やり私から引き剥がした。

 私は体を起こし、胸の前で手を握ったまま、暫く放心していた。

「……ッてて、」

 義父は強かに腰を打ち付け、痛がっている。

「美紅っ! 出るぞ!!」

「……へ」

「へ、じゃねーよ! 早く来いっ!」

 そう言ってサクが手を差し伸べてくれるが、私は固まった置き物みたいにベッドに座り込んだままで動けない。

 あんなに助けて欲しいと願ったのに、いざそうなると頭が混乱して目は瞬きを繰り返すばかりだ。

 きっと腰が抜けていたんだと思う。

 サクはチラッと義父の様子を警戒してから嘆息し、「ったく、世話がやけるな」と言って私の背中と足に腕を回した。

 ふわっと体が浮き、サクの顔が近くなる。