そのまま仕事用の鞄を手に、玄関へ向かう。

 ーーあ。

「待って、兄貴っ」

 慌てて箸を置き、その背を追い掛けた。

「あの、ごめんなさい。私のせいで」

 革靴を履いたサクが、無表情で私に振り返る。

「私、ちゃんとするから。お義父さんと仲良くして?」

 サクの目をきちんと見て話すのが久しぶりで、少なからず緊張してしまう。サクはスッと目を細めて、嘆息した。

「相変わらず馬鹿だな、美紅は。お前は何の心配もしなくていい。辛い時はいつでも電話して来て良いから、あんまり無理するな」

「兄貴……」

「俺はお前の味方だからな?」

 サクの優しさが慣れなくて、私はただ小さく頷いた。

「じゃあな、行ってくる」

 後ろ手にパタンとドアが閉められるのを、立ち尽くしたままで見送った。

 ーー「俺はお前の味方だからな?」

 サクのその言葉が昔の彼とダブった。

 ーー「美紅の事は。兄ちゃんのおれが守ってやるからな」

 私を守ってくれるのは、やっぱりサクしかいない。

 勿論、もう小さな子供じゃないので、守られているだけじゃ駄目だというのは分かりきっていた。けれど、今の私を元気付けるのに彼の言葉は充分過ぎた。

 ただただ、サクの優しさが心に染みた。