1.守る存在の喪失

 大学を卒業する年になり、平和な日常が続く平日の午後。それは何の前触れも無く、私を不幸のドン底へと突き落とした。

 大学の講義を終えた昼休みの時間だった。いつもの習慣と癖でスマホを開くと、電話のアイコンに赤い⑤のバッジが付いていた。

 アイコンを開いて私は目を疑った、五件の不在着信のうち、二件はサクで三件は義父だ。

 世良 咲弥の名前に、容易(たやす)く心音が高鳴り、すぐさまコールバックする。

 プルルルル、と十回の呼び出し音を数えた所で溜め息が漏れた。

 中々繋がらない。

 一度膨らんだ期待が音を立てて萎んでいく。

 サクが私に電話をくれる事なんて滅多に無いので、その事に舞い上がり、義父とサクの用件に関して全く考えが及ばなかった。

『もしもし、美紅か?』

 電話に出たサクの声は、幾らか焦りを滲ませていた。

「……あ。うん、電話くれたでしょ? どうし、」

義母(かあ)さんが亡くなった』

「……え」

『トラックに跳ねられて。……ほぼ即死だって……、病院に搬送されたけど……っ、間に合わなかったらしい…ッ』

 ーーえ…………。

 私はただ呆然とし、その場に座り込んだ。

 ーー今。なんて……?

 腕がだらんと落ちて、床にスマホが転がった。落ちたそれから『もしもし、美紅?』とサクの慌てる声が遥か遠くで聞こえる。