宿題もしたし、夜ご飯もお風呂も済ませて、

あとはベッドでゴロゴロして寝ようかというとき。

遠慮なく私のスマホにかかってきた電話の相手は

      
      【坂下美夜】



…あぁ、出たくない、出たい。


有無を言わさず鳴り続ける音に、

思わず出てしまうのは仕方ない。


『…もしもし』

そう控えめに出ると、向こうから


『…おい、お前さ、今日俺に彼女いないって言ったんだよな?』

いつも聞く声とは違う、電話だからこそ感じる低音。


脳に直接響いて、この人は男の人なんだと痛感させる。


『…ん?あぁ、羅島さんね、聞かれたから言ったよ』


そう答えると苛立ったように即座に、


『本当さ、中学の頃から言ってるだろ。俺の彼女にふさわしいやつとか"そうそう"いねぇの』


『今日あいつに放課後話しかけられた。これから聞かれても、彼女いるとか適当言ってくれていいから』


…彼は昔から言う。

俺にふさわしいやつは"そうそう"いない、と。

だから聞かれても断ってくれって、



知らないよ、そんなこと。



いつもなら分かったよと軽く返すけど、今日はそうもいかなくて。


私は声を震わせながら、感情とは裏腹に言った。


『…羅島さんが稀な、坂下にふさわしい彼女になれるんじゃないの?』


『似合ってるよ、羅島さん可愛いし』


そう言うと、電話の向こうは沈黙になって、

やがて口を開いたかと思うと、


『…だから嫌なんだよ』


ただ、冷たく一言言われて。


『夜遅くにごめんな、おやすみ』


それでも最後には優しい声で電話を切られるから、

『…おやすみ』

もう繋がっていない電話に呟いて、  

1人、苦しくなるんだ。