そして土曜日。
駅で待ち合わせということで10時に行くと、
遠巻きに視線を集めている男性が1人。
……って、
「ゆーゆ!?」
そこには、
茶髪のウィッグをかぶって、
どうやら靴で身長を底上げしているらしい、
どう見てもかっこいい男の人にしか見えないゆーゆが…いた。
私に気づくなりゆーゆは「音ちゃん!」と手を振って、こちらへ歩いてくる。
白いTシャツにネックレス、
ジーパンを合わせたゆーゆはとってもカッコ良くて、
「…ホストにしか見えない」
「えー、本当?音ちゃんも可愛いよ」
そう言って微笑むゆーゆに、謎のスイッチが入ったらしく
私の耳元に口を近づけ、
「…そのスカートも可愛いじゃん、音葉、似合ってるよ?」
と、どこからそんな声出るの?というイケボで囁いてくれた。
「うん、美夜が彼氏じゃなかったら今ゆーゆに惚れてました」
「やったぁ〜」
というしょうもない会話をして電車に乗り、
近くの大型ショッピングセンターに着いた。
2人でタピオカのお店の列に並びつつ、
「あ!じゃあ今日は音ちゃんは私のことゆう君って呼んでよ!」
と提案。
「分かった!ゆー、…えっとゆう君ね!」
うっかりゆーゆと呼びそうなのを堪えてゆう君呼びに励む私。
「…じゃあ俺は君のこと、音ちゃんって呼んじゃうぞ?」
バキューン、と
効果音をつけながらこちらを撃ち抜いてくるそぶりを見せるゆう君に、一言。
「それいつもと変わんないよ」
そんなゆるいノリながらも、
2人でプリクラを撮ったり、ご飯を食べたりして楽しく過ごした。
テンションの上がってきた私たちは、
どこまでカップルっぽく出来るかということで、
腕を組みながら歩くということをしていたとき。
後ろから急に、
とんでもなく低い声が聞こえてきた。
「…おいてめぇ、音葉に触んじゃねぇよ」
よく聞き慣れたその声が鼓膜を揺らしたとき、
隣から、勢いよくゆーゆが消えた。
「ゆう君!?」
この1日で慣れてしまったのか、口から出るのは「ゆう君」。
この人、
美夜の前で男の人の名前を呼ぶのは良くないことなのに…。
私が「ゆう君」と言いながら振り返ってしまったが最後。
「……この男のほうが良いのか?」
とんでもなくキレていらっしゃる美夜と目が合い、
ゆう君ことゆーゆは、
美夜に殴られそうになっていた。
「…ちょっとやめてよ!」
急いで2人を引き剥がし、
ゆーゆを庇うようにして前に立って、
今にも暴れ出しそうな美夜に言う。
「この人はゆーゆ!私の親友の『女』のゆーゆが男装してるだけ!男の人じゃない!」
ゆーゆのために黙っておこうと思っていたけど、
こうなったら、申し訳ないけど仕方ない。
私の言葉に呆然とした美夜は、
すぐにため息をつきながら天を仰いで、
「…俺、もう飽きられたかと思った」
と、静かに呟いた。



