私も、昔は彼のこと好きな時期だってあった。
カッコ良くて、優しくて、そりゃ好きになってしまうでしょ。
だけど、ちゃんと気がついた。
私は、彼のいつも言う通り平凡。
あまり笑うということをしないし、可愛げすらない女子。
しかも、彼はたった私にだけ暴言を吐く。
他の男子にも…女子にも優しいのに、私にだけ。
対等に見られていないのだろうと分かってるから、あの日の恋心はもう無くした。
いや、無くなってなくて隠してるだけかもしれないけれど、
この際どうだっていい。
もう切なくなるだけだし彼から離れたい…、そんなふうに思う毎日。
何かが変わり始めたのは、今日だった。
授業の合間の休み時間、
私に話しかけてきたのは同じクラスの羅島悠由(らしまゆうゆ)ちゃん。
「佐々木さん、今ちょっとお話大丈夫かなぁ?」
ふんわりとした雰囲気で、学年の中でも、いや学校中でも目を引く美少女。
ゆったりとした話し方は『ぶりっこ』と称されるものだけど、
別に彼女は相手が男子だからとかじゃなくて女子にも同じ話し方だし、
前に話したときに優しい子だなって印象だった。
「うん、いいよ。どうしたの?」
と聞くと、彼女は「ありがとう」と微笑んで私の耳元に控えめに顔を近づけて、
「私、坂下くんのこと気になっててね、彼女とかいるのかなぁって」
「本人に聞くのは恥ずかしくて…、佐々木さんなら知ってるかなぁって思ったの」
そう言って顔を離して、
照れたように『いるのかな?』とかしげる羅島さんは、
本当に可愛かった。
私は少し彼女に見惚れながら、
「いないと思うよ」
と落ち着いて首を振りながら伝えた。
途端に、少し安堵した表情になる彼女。