「…あぁ、こんなことになるなら気遣うのやめとけば良かった」
「ねぇ、音葉」
吐息混じりのその色気たっぷりの声に乗せて、
私の名前、しかも下の名前が発せられた。
「…何で、俺がお前にだけ冷たくて暴言吐くか知ってる?」
思わず、息を飲んだ。
「あんな風に少しでも距離取らなきゃ俺」
『音葉が好きで好きで堪らなくて、気が狂うからだよ』
そう言い終えたと同時に彼は私から少し距離を取って、
驚いた顔しか出来ない私を見つめて、
満足げに口角を上げて言った。
「音葉のそんな驚いた顔も、笑顔も、全部全部」
『俺だけのものに、なってよ』
そう言ったかと思うと、
右手でグッと私の顎を上げて、
優しく優しく、
彼は口づけをした。
思考が、止まる。
私は、特に好かれてもないと思ってた彼に、
なんて言われて、何でキス…されてる?
完全に理解が追いつかなくなった私を見ながら唇を離した彼は、
「音葉が他の男に取られる前に」
「俺のものにするしか、ないだろ?」
月明かりに照らされて、
ようやく本性を現した彼に、
とんでもなく翻弄されているのは確かで…。



